SS-024_第**24話_最強の中身**
「結城くんね」
栞は、奏多の名前が書かれたノートを開いた。
「最初からちょっと面白いよー」
「……面白い?」
栞が楽しそうにページをめくる。
そこに書かれていたのは、奏多が初めて大会に出た時の記録だった。
「まず、これ」
栞が指差す。
スキル使用――0。
スペシャル使用――0。
対応力――あり。
「……。」
奏多は黙ってその文字を追った。
そして、その少し下。
「アプリ名――最強」
「……。」
奏多の目が止まった。
ゆっくりと栞を見る。
「……見てたの?」
「見てたよ?」
当たり前のように返される。
「最強?」
少し離れたところから声がした。
篠宮が二人の方を見ている。
「あ、あれはその……」
奏多は慌てて手を振った。
「ちょっと、舞い上がっちゃって……」
栞が、ふふっと笑う。
篠宮は少しだけ楽しそうにして、また自分の作業へ戻っていった。
「もういいでしょ……」
「ふふっ。あとね、これ」
栞が別の一文を指差した。
『ブレードは理想速度が出てる模様』
「……理想速度?」
「うん。最初の試合でブレード使ってたでしょ?」
「ああ……」
言われて、奏多は思い出す。
相手の攻撃に対応するために、大剣からブレードへ武器を変えた。
あの時は、そんなことを考えている余裕なんてなかった。
「見た感じだけど、理想速度が出てたと思う」
「そうなの?」
「うん」
「……なんとなく振ってただけだけど」
「なんとなく?」
栞が少し驚いた顔をする。
奏多は自分の手を見る。
速さを意識した覚えはない。
相手の武器を見て。
来る攻撃を見て。
ただ、振っただけだ。
「じゃあ、もっと速く振るようにしたら――」
「それはやめた方がいいよ」
すぐに栞が止めた。
「え?」
「理想速度って、一番速く振ればいいってことじゃないから」
栞は少し考えてから続ける。
「今より速くしようとか、焦って振ろうとすると、逆に崩れちゃうと思う」
「そうなんだ」
「たまたまでも出てたなら、今はそのままでいいんじゃないかな」
「……分かった」
意識しない方がいい。
そう言われると、少し変な感じがする。
けれど、なんとなく振ってできていたものを、わざわざ変える必要もないのだろう。
「そうだ」
栞が顔を上げた。
「最強、ちょっと見せて?」
「……その呼び方やめてよ」
「アプリの名前でしょ?」
「そうだけど……」
奏多はスマホを取り出した。
《最強》を開いて、栞に見せる。
「どれどれ……」
栞が設定を確認する。
「……あれ?」
「何?」
「スキルもスペシャルもデフォルトのままじゃん」
「うん」
「うんって……」
栞が顔を上げる。
奏多は少し間を置いてから聞いた。
「で……スキルって、どうやって使うの?」
「そこから!?」
栞の声が大きくなった。
「だって、使ったことないし」
「そうだけど……ちゃんと教えてあげたらよかったね……」
栞は自分のグリップを手に取った。
「じゃあ!まず使い方からね」
「うん」
「ここにダイヤルがあるでしょ?」
栞が指で回してみせる。
「これを回して、使いたいスキルを選ぶの」
奏多も自分のグリップを手に取り、ダイヤルを回した。
カチ。
表示が切り替わる。
「選んだら、Cボタン」
「これ?」
「そう!」
奏多がCボタンの位置を確認する。
「今、何が選ばれてるかは?」
「グラスのUIに出てるよ」
言われて、奏多は表示を見る。
もう一度ダイヤルを回す。
カチ。
表示されているスキルが変わった。
「ほんとだ」
「あとね、グリップのどこが光ってるか見ても分かるよ」
奏多が手元を見る。
確かに、ダイヤルを回すたびに光る場所が変わっている。
「慣れたら、こっちで確認してもいいしね」
「なるほど……」
「それと、使いたくなってから選ぶんじゃなくて」
栞がダイヤルを回す。
「使いたくなる少し前から準備しておくのがポイント」
「少し前から?」
「うん。必要になってからダイヤル回して探してたら、その分遅くなるでしょ?」
「ああ……」
試合中のことを考えれば分かる。
相手は待ってくれない。
使いたい瞬間には、もう選び終わっていなければならない。
「それと、ダイヤルは登録した順番に回るから」
栞が今度はアプリの設定画面を見せる。
「コンボがあるなら、順番も考えて設定するといいよ」
「順番も?」
「うん。次に使いたいものがすぐ選べた方が楽でしょ?」
奏多は画面を見る。
どのスキルを入れるかだけではない。
どういう順番で使うのか。
いつ選んでおくのか。
そこまで考えて設定する。
「……スキル構成って、そういうところまで考えるんだ」
「そういうこと!」
森下と岡野の試合を見た時より、少しだけ意味が分かった気がした。
「じゃあ、スペシャルは?」
「スペシャル?」
「うん。使い方」
「ああ、それはね」
栞が真面目な顔になる。
「まず、手を挙げて」
「手を挙げて?」
「それから、技名を叫ぶの」
「……技名を?」
「うん」
奏多は少し考えた。
そういえば――
「ふふっ」
栞が吹き出した。
「冗談だよ! 岡野くんのあれ、面白かったからつい」
「……。」
「ごめんごめん!」
「信じるところだった……」
岡野が実際に叫んでいたせいで、余計に信じかけた。
「スペシャルも同じだよ。ダイヤルで選んで、Cボタン!」
「なんだ……」
「なんだとは何よー」
栞は笑いながらグリップを置いた。
一通りの説明を聞いて、奏多も自分のグリップを机に置く。
操作方法は分かった。
けれど――
「これ、実際の試合で使えるかな……」
ダイヤルを回して。
選んで。
必要になる前に準備して。
相手を見ながら、必要な瞬間に使う。
説明を聞くだけなら簡単だが、試合中にやるとなると話は違いそうだ。
「あ、それなら!」
栞がぱっと顔を上げた。
「明日から三日間、体育館使えるから」
「明日から?」
「うん!」
そういえばさきほど、篠宮に体育館の予定を聞かれていた。
「実践形式のスキルの練習、付き合うよ!」
「ほんと?」
「この前、練習相手になってって言ってたでしょ?」
「あ……」
森下と岡野の試合を見たあと。
いろいろなスキルを試してみたくなって、栞に頼んだのだった。
「お願い!」
「任せて!」
栞が嬉しそうに頷く。
「あ、それと――」
何かを思い出したように机へ向かう。
「これ!」
何枚かの紙を持って戻ってきた。
「使えそうなスキルの一覧!」
「おお……」
奏多が受け取る。
「こっちはスペシャルの!」
もう一枚、重ねられる。
奏多は並んだ名前をざっと眺めた。
知らないものがいくつもある。
「これで全部?」
「ううん。全部じゃないよ」
栞は首を振った。
「とりあえず、使えそうなのをまとめたやつ!」
「なるほど……」
奏多はもう一度、一覧を見る。
「明日までに、使ってみたいの考えといて!」
「分かった」
スキル。
スペシャル。
今まで知らないまま、ほとんど使わずに戦っていたもの。
それを使えば、自分の戦い方はどう変わるのだろう。
奏多はしばらく、手渡された一覧を眺めていた。