SS-23_第**23話_マネージャー**
放課後。
奏多がスマホ部の部室へ入ると、いつもと少し違う光景が目に入った。
「こんにちは」
何人かの部員が適当に返事をする。
その中で、栞だけは机に貸し出し用の器具を並べていた。
ARグラスをクロスで丁寧に拭き、光にかざして確認している。
「七瀬さん、何してるの?」
「貸し出しの器具のメンテ!」
栞はそう言うと、別の器具を手に取った。
「綺麗に拭いたり、ちゃんと充電できてるか見たりするの」
「こういうのも七瀬さんがやってるんだ」
「うん! マネージャーだからね!」
少し得意げに笑う。
確認を終えた器具を片付けると、今度は掃除道具を取り出した。
奏多がその動きを目で追う。
「……まだあるの?」
「次はお掃除!」
栞はそのまま部室を掃除し始めた。
少し見ていた奏多も、やがて近くの机に手をかける。
「手伝おうか?」
「ほんと?」
栞の顔が明るくなる。
「じゃあ、そっちお願い!」
「うん」
二人で掃除を始める。
「あ、それ終わったらこっちもお願いー」
「こっち?」
「そうそう!」
机を拭き、棚を整え、少し動かしたものを元に戻す。
特別なことは何もない。
けれど、こうして部室で一緒に作業していると、本当に部活にいるんだなと奏多は少しだけ思った。
しばらくして、掃除がひと段落する。
「ありがとー! 助かった!」
「こんなところかな」
「うん!」
奏多が一息つく。
ところが、栞は休む間もなくスマホを取り出した。
「……?」
奏多が見る。
「今度は何してるの?」
「近くの大会チェック!」
「大会?」
「うん。みんなが出られそうなのがあったら教えるの」
栞は画面を見ながら、いくつかの情報を確認していく。
「あとはアップデートの情報とか」
少しスクロールする。
「サーバーメンテナンスの予定とか!」
「大事なのがあったら、みんなに知らせるよ」
「……結構いろいろあるんだね」
「まだあるよ!」
「まだあるの?」
奏多が少し驚いた、そのとき。
「七瀬、今週の体育館どうなってる?」
篠宮が部室へ顔を出した。
「あ、水曜から金曜まで使えますよ!」
「了解」
短いやり取りを終え、篠宮はまた別の方へ向かう。
栞が奏多を見る。
「体育館の予定とか、練習試合の管理も先生と一緒にやってるの」
「へぇ……」
「あと、大会に出た記録とか、ランキングも!」
栞は別の記録を取り出した。
奏多が横から覗く。
部員たちの名前が並んでいる。
その中で、一つの名前に目が止まった。
「……あれ、この名前」
「ん?」
栞が覗き込む。
「あぁ! 生徒会長だよ!」
「生徒会長?」
「うん!」
栞は何でもないことのように続けた。
「副会長の白石さんも兼任でスマホ部のメンバーだよ!」
「そうなの?」
「二人とも忙しい人たちだから……」
栞が少し考える。
「結城くん、まだ会ってなかったっけ?」
「うん」
「そっかー」
奏多はもう一度記録を見る。
桐生玲奈。
名前だけは知っていた。
けれど、まさか同じ部活の人だったとは思わなかった。
そのまま視線をずらした奏多が、近くに置かれている別のノートに気づく。
「これは?」
「あ、それは選手ノート!」
「選手ノート?」
栞は少し嬉しそうに一冊を開いた。
中には、部員ごとに試合内容や使った構成などが細かく書き込まれている。
奏多も興味を持って覗き込む。
ページをめくっていると、知らない名前が出てきた。
「この人も部員?」
「ううん、他の学校の人!」
「他の学校?」
「大会見に行ったときに、気になった選手とか書いてるの!」
奏多はノートの量を見る。
「……こんなに」
「試合見るの好きだからね!」
奏多は少し考える。
「これもマネージャーの仕事?」
「…………」
栞が一瞬だけ止まった。
そして、にっこり笑う。
「これは趣味も入ってる!」
「そうなんだ……」
「うん!」
あっさり認めた。
その様子を見て、奏多も少しだけ笑う。
「七瀬さん、本当にスマホ好きなんだね」
「うん!」
栞はそう答えてから、何気なく続けた。
「お母さんも開発に関わってるんだー」
「……え?」
奏多が栞を見る。
「スマホの?」
「うん!」
「そうなんだ……」
栞は少しだけ嬉しそうに話し始めた。
「お母さんはね」
奏多が聞く。
「あんまり運動に自信がない子でも、楽しく動き回れるスポーツを目指してるんだって」
「へぇ……」
奏多は素直に感心した。
すると栞が、何かを思い出したように顔を上げる。
「あ、そうだ!」
「?」
「お母さん、結城くんがスマホ始めたの喜んでたよー!」
「僕?」
「うん!」
栞は笑いながら続ける。
「お父さんのお手伝いも偉いけど、みんなに高校生の頃しかできないことしてほしいって」
「……そっか」
奏多は少し意外そうに答えた。
自分の知らないところで、そんなふうに思ってくれている人がいたらしい。
栞がにこっと笑う。
奏多も少し考えて――ふと、別のことに気づいた。
「……じゃあ、この前のカカシキーホルダー」
「ん?」
「お母さんに言えば貰えたんじゃないの?」
「無理無理!」
栞は即答した。
「お母さん、そういう不正みたいなのすごく厳しいの!」
「そうなんだ……」
「初参加の人だけなんだから、私は貰えないの!」
なるほど、と奏多は頷く。
だからあれだけ欲しがっていたのか。
栞は選手ノートを片付け始める。
奏多はその手元を見ながら、ふと聞いた。
「……僕のもあるの?」
「あるよ!」
「いつから?」
「入部体験のときから!」
「そんな前から……」
栞は何冊かあるノートの中から、一冊を取り出した。
奏多の名前が書かれている。
「……何が書いてあるの?」
「んー?」
栞はページを開く。
最初の方を見て、少し楽しそうに笑った。
「結城くんね」
「?」
栞は奏多を見る。
「最初からちょっと面白いよー」
「……面白い?」