SS-018_第**18話_つよく・・・**
放課後。
奏多がスマホ部の練習場へ入ると、栞がすぐにこちらへ気づいた。
「あ、結城くん!」
その隣には、見慣れない女子生徒がいた。
明るい髪に、華やかな雰囲気。
栞が嬉しそうに紹介する。
「昨日言ってた朱里ちゃん先輩!」
「あー、君が結城くん?」
「はい。結城奏多です。よろしくお願いします」
「あたし小松朱里。二年ねー。よろしく!」
朱里は軽く手を振った。
「朱里ちゃん先輩! 昨日言ってたやつ見せて!」
「いいよー!」
朱里がいくつものキーホルダーを取り出す。
そのうちの一つを読み込ませると、練習場に立っていたカカシの姿が変わった。
「かわいいー!」
栞がすぐに声を上げる。
「こんなのもあるんですね」
「まだあるよー」
朱里が次のキーホルダーを読み込ませる。
また変わる。
さらにもう一つ。
また変わる。
「これイベントでもらったやつ!」
「へえー!」
「で、こっちは別のイベントの!」
「これもかわいい!」
栞がいちいち楽しそうに反応する。
朱里も得意げだ。
奏多も次々と姿を変えるカカシを眺めていた。
同じトレーニングでも、見た目が違うだけでずいぶん印象が変わる。
「朱里ちゃん先輩、こんなに持ってるの?」
「集めてんのー」
朱里がキーホルダーを見せびらかすように広げた。
「でも去年の初参加のやつだけ持ってないんだよねー」
「そうなんだ」
そのときだった。
少し離れたところから、小さく音声が聞こえた。
『うわぁお!』
少しして。
『うわぁお!』
また。
『うわぁお!』
朱里の眉がぴくりと動いた。
練習場の隅。
そこでは圭介が一人、黙々とトレーニングを続けている。
グリップを振る。
『うわぁお!』
「圭介うるさい!」
圭介の手が止まった。
「いや! オフにしとけばいいだろ!」
「あたし、人がやってる見るのケッコー好きなんだよねー」
「じゃあ我慢しろよ!」
「うるさいもんはうるさい!」
「理不尽だろ!」
栞がくすくす笑う。
奏多も少し笑った。
圭介は納得いかなそうな顔をしながら、再びカカシへ向き直った。
そこへ、練習場の扉が開いた。
「あ」
奏多が振り返る。
「岡野くん」
「あ! 岡野くん!」
栞も気づいて手を振った。
「あ……結城くん、七瀬さん」
優が二人に軽く頭を下げる。
すると朱里が優を見て、声を上げた。
「あー! いつもニンジャ振ってる一年じゃん!」
「えっ」
優が固まる。
「……見られてたんですか?」
「見てた見てた! 岡野くんっていうんだ?」
「あ、はい。岡野優です」
「あたし小松朱里。二年! よろしくー!」
「よろしくお願いします」
優は少し緊張したように頭を下げた。
そして、朱里たちの前にいるカカシを見る。
「これ……見た目変えてるんですか?」
「そ! キーホルダーで変えられるんだよー」
朱里がいくつか見せる。
「いっぱい持ってるんだけど、去年の初参加のだけないんだよねー」
「あ……」
優が何かを思い出したように瞬きをした。
「去年のなら、僕、持ってます」
「…………は?」
朱里の動きが止まった。
優が自分の持ち物からキーホルダーを取り出す。
「これですけど……」
「ええっ!?」
朱里が一気に距離を詰めた。
「それそれそれ! それだよ!」
「わっ」
「ねえ優くん、それ交換してよぉ〜!」
「えっ」
「ちゃんといいの出すから!」
朱里が自分のキーホルダーを探し始める。
「えーっと……あった!」
一つを取り出した。
「超レア! ニンジャ仕様!」
「……ニンジャ?」
優の反応が明らかに変わった。
「見てて!」
朱里がキーホルダーを読み込ませる。
カカシの姿が変わった。
頭巾をかぶった、ニンジャ風の姿。
そして、その周囲には――小さな手裏剣がいくつも浮かんでいる。
「……!」
優が目を見開いた。
一歩近づく。
じっと見る。
「手裏剣も浮いてる……!」
「でしょー?」
朱里がニヤッとする。
「超レアだよー?」
優はニンジャ仕様のカカシを見る。
自分のキーホルダーを見る。
またカカシを見る。
「……交換してください」
「やったー!」
朱里が両手を上げた。
交渉成立だった。
*
「おー、なんか盛り上がってんな」
練習場へ入ってきた森下が、こちらを見た。
「あ、森下先輩」
奏多が声をかける。
「お、結城」
森下は奏多を見ると、その腰のスマホにも目をやった。
「久々だし、対戦する?」
「……」
奏多は少し考えた。
「すみません」
「ん?」
「今日はトレーニングしたいです」
森下が少し意外そうな顔をする。
「なんか、掴めそうな気がして」
「そっか」
森下はそれ以上何も言わなかった。
すると、その横から優が一歩出た。
「じゃ、じゃあ森下先輩!」
「ん?」
「僕と対戦してもらえませんかっ!」
「お、いいよ」
「……!」
すぐに返事が来た。
優は嬉しそうにしたあと、急に不安そうな顔になる。
「あっ……その……」
少し声が小さくなった。
「僕、あんまり強く……」
そこで森下が、ふいに奏多へ目を向けた。
目配せ。
それから片手を出して、指先をちょいちょいと動かす。
「……?」
奏多は一瞬分からなかった。
もう一度。
ちょいちょい。
「あ」
奏多は自分のグリップを差し出した。
森下が受け取る。
優は、言葉の続きを止めたまま森下を見ていた。
森下は奏多が使っていたトレーニングモードのカカシの前へ立つ。
ブレードを生成。
軽く構える。
そして――。
思い切り振り抜いた。
ブンッ!!
速い。
だが。
『ん……? なんか通った?』
カカシから返ってきたのは、そんな判定だった。
森下が振り返る。
少しだけ格好をつけるようにブレードを構えたまま、
「あんまり強く……」
そこで一拍。
「振ると、こうなるよな!」
優が森下を見た。
「……」
言おうとしていた言葉。
その続きを、森下は言わせなかった。
優の目が、ほんの少し潤む。
それでも口元には、少し嬉しそうなものが浮かんでいた。
怖くないわけではない。
けれど。
優は覚悟を決めたように、しっかりと森下を見る。
「……っ、はいっ!」
「よし!」
森下は満足そうに頷いた。
そして奏多へグリップを返す。
「あ、新品思いっきり振ってごめんな!」
「いえ!」
奏多は受け取った。
さっきの森下と優のやり取りを思い返す。
「カッコよかった……気がします!」
「気がします!?」
森下の声が練習場に響いた。