練習場へ移動すると、奏多は改めて辺りを見回した。
部室の休憩室とは違い、ここは身体を動かすための空間だ。
「じゃ、せっかくだ。少し練習してくか」
先生の言葉に、奏多はすぐに振り返った。
「はい!」
「結城。大剣出してみろ」
「大剣ですか?」
言われるままスマホを操作する。
グリップを握った奏多の手元から、大きな剣が生成された。
大会でも使った大剣。
見慣れたとは言え、こうして改めて構えるとやはり大きい。
「適当に振ってみろ」
「はい」
奏多は大剣を構えた。
そして――勢いよく振る。
ブンッ!
手に持ったグリップは、一気に身体の横まで振り抜かれた。
だが。
「……あれ?」
奏多は自分の手元を見る。
何かがおかしかった。
もう一度。
今度はさっきよりも意識して、強く、速く。
ブンッ!
「……なんで?」
やはり妙だ。
自分の手はちゃんと動いている。
それなのに、目の前の大剣は、その動きに綺麗についてきていない。
「速すぎ」
先生が言った。
「え?」
奏多は思わず振り返る。
「速い方がいいんじゃないんですか?」
「限度がある」
先生は奏多の手元を指した。
「お前が実際に持ってるのは、それだけだ」
奏多も自分の手を見る。
握っているのはグリップ。
当然ながら、大剣ほどの重さなどない。
「でも、試合で使ってるのはそっちだ」
先生の指先が、今度は大きなARの剣へ向いた。
「グリップじゃなくて、大剣を振れ」
「大剣を……」
奏多は目の前の武器を見る。
大きな刃。
長い刀身。
もし、これが本当に手の中にあったなら。
さっきのように、腕だけで簡単に振り回せるはずがない。
奏多は構え直した。
今度は、そこに本当に大きな剣があるつもりで。
身体を使って、大きく振る。
先ほどよりもずっとゆっくりとした動き。
だが――。
大剣が、ついてくる。
手元の動きに合わせて、大きな刃が綺麗な軌道を描いた。
「おお……!」
奏多の顔が明るくなる。
もう一度。
構えて、振る。
今度も大剣はしっかりとついてきた。
「なるほど……」
少し楽しくなってきた。
奏多は大剣を見ながら尋ねる。
「じゃあ、ゆっくり振ればいいんですか?」
「やってみろ」
「はい」
今度は意識して、さらにゆっくりと振ってみる。
大剣は問題なくついてくる。
先ほどよりもずっと綺麗だ。
「じゃ、俺が相手やるよ」
黒瀬が奏多の前に立った。
「お願いします」
奏多は大剣を構える。
そして、今覚えたばかりの動きで、ゆっくりと振った。
黒瀬はそれを見て――。
ひょい。
一歩動いただけで、あっさり避けた。
「あ」
「それなら余裕だなー」
「……ですよね」
いくら綺麗に動いても、これでは当たらない。
奏多が表示を確認すると、さらに気づく。
「威力も低い……」
「遅けりゃ、その分弱くなる」
先生が言った。
奏多は大剣を見る。
速すぎれば、大剣がついてこない。
遅すぎれば、避けられる。
そのうえ威力まで下がる。
「じゃあ……」
奏多は少し考えてから言った。
「ちゃんとついてくる中で、できるだけ速く?」
「そういうこと」
「なるほど……」
もう一度、大剣を構える。
今度は少しだけ速く。
まだついてくる。
もう少し。
今度はどうだ。
そんなふうに何度か振っているうちに、奏多はふと手を止めた。
「あ……」
頭に浮かんだのは、森下との練習試合だった。
攻撃を受けそうになって、慌ててガードしようとした時。
確かにグリップは動かした。
それなのに、武器が思ったようについてこなかった。
奏多は森下を見る。
「森下先輩との試合で、ガードがついてこなかったのって……」
先生が答える。
「動かすのが速すぎたからだな」
「やっぱり」
「あれは焦るよなー」
森下が笑う。
奏多はグリップを握ったまま、試しにガードする位置へ武器を動かしてみた。
さっきの試合の時とは違う。
ARがついてこられる速さで、しっかりと。
「攻撃が来てから慌てて動かしても遅い」
先生が言う。
奏多は武器を動かす。
「早く動かすんじゃない。早く動き始めろ」
奏多の手が止まった。
「……相手が振る前から?」
「全部は無理でも、ある程度は読め」
「反射神経だけじゃダメなんだ……」
「そりゃそうだ」
森下が当然のように言った。
奏多は再び大剣を見る。
大きく、重そうな武器。
だからこそ、扱う時にもそれらしい動きが必要になる。
そこで、もう一つ疑問が浮かんだ。
「でも、大剣だからこんなにゆっくりなんですよね?」
「当然、武器によって違う」
先生が答えると、黒瀬が楽しそうに口を挟んだ。
「じゃ、これは?」
スマホを操作する。
黒瀬の手元に生成されたのは、大鎌だった。
奏多は少し身構える。
ついさっきまで、自分が相手をしていた武器だ。
黒瀬が大鎌を構えた。
長い柄。
大きく湾曲した刃。
その大きさだけを見れば、大剣以上にゆっくり動きそうにも見える。
だが。
ヒュンッ!
「速っ!」
奏多の目が大きく開いた。
大鎌が、大きな軌道を描いて走る。
決して小さな動きではない。
しっかりと大鎌らしい大振りなのに、その動きは奏多が想像していたよりずっと速い。
「それでもついてくるんですか?」
「大鎌はこれくらいなら平気」
黒瀬は大鎌を構え直す。
「武器ごとに違う。自分で覚えろ」
先生が言った。
「大剣と全然違う……」
奏多は大剣と大鎌を見比べる。
同じようにグリップを握っている。
けれど、動かし方はまるで違う。
そこで奏多は、さらに気になった。
「じゃあ、射撃武器は?」
「同じようなもんだ」
先生が操作すると、ガトリングが生成された。
「ガトリングなんかは、撃ち始めにも隙がある」
ガトリングを構える。
始動。
少し遅れて、射撃が始まる。
その状態で先生が狙いを大きく横へ振った。
グリップだけなら、一瞬で向きを変えられる。
だが、ガトリングはその動きに綺麗についてこない。
「こっちもか……!」
奏多は思わず声を上げた。
大剣。
大鎌。
ガード。
ガトリング。
同じグリップを使っているのに、どれも同じようには動かせない。
それぞれの武器に、それぞれの扱い方がある。
奏多は自分の大剣を見た。
「武器ごとに全部、動かし方が違うんだ……」
「だから練習するんだろ」
先生が言った。
奏多は少しだけ黙った。
そして大剣を構え直す。
最初に言われたことを思い出す。
グリップじゃなくて、大剣を振る。
目の前にある大きな刃を見て、奏多は少し笑った。
「……もう一回やってみます!」