会場に着いた瞬間、奏多は足を止めた。
「……結構いるな」
大会用に設けられた会場には、すでに多くの参加者が集まっている。
受付へ向かう人。 試合を待つ人。 モニターを見上げる人。
奏多が周囲を見回す。
「初心者大会って、もっとこう……初心者ばっかりなのかと思ってた」
「ん?」
栞が振り返る。
「初心者大会じゃないよ?」
「え?」
「誰でも参加できる大会だよ」
「……誰でも?」
「うん」
栞は何でもないことのように答えた。
「初めて大会に参加した人には、キーホルダーがもらえるだけ」
「……あ」
奏多が固まる。
「じゃあ、初心者しかいないわけじゃないの?」
「最初からそう言ってないけど」
「……」
奏多は改めて周囲を見回した。
どうやら自分は、とんでもない勘違いをしていたらしい。
「結構、強い人もいるよ」
栞がそう言った。
その言葉に、奏多は会場を見渡す。
あちこちで試合が行われている。
参加者たちの動きは、前日の練習で見たものとは明らかに違っていた。
「……なるほど」
奏多は少しだけ表情を引き締めた。
*
三人は受付を済ませる。
「こちら、大会終了後にお渡しします」
係員から渡された案内には、参加記念のキーホルダーについて書かれていた。
「大会の後なんだ」
栞が少し嬉しそうに反応する。
奏多はその様子を横目に見ながら、受付を離れた。
「じゃ、行こうか」
三人は試合会場へ向かった。
会場内には、すでにいくつもの試合が行われている。
実際に戦っている選手。
その試合を取り囲む観客。
そして、試合の情報を映し出す大型モニター。
奏多はそれらを眺めながら歩いていた。
前日の練習とは、やはり雰囲気が違う。
今日は本番だ。
しばらくして、奏多はアプリの選択画面を開いた。
(アプリとはアクションプリセット、武器3種など競技用の設定のことである)
画面には、いくつものアプリが並んでいる。
その中に、一つの名前が見えた。
――最強。
奏多は迷うことなく、それを選択した。
「決めてます」
そう言って、奏多は画面を閉じる。
栞には、そのアプリの中身までは分からない。
奏多は少しだけ笑った。
「どうせなら勝ってきます」
その言葉を残し、奏多は試合会場へ向かった。
*
やがて、奏多の試合が始まる。
対戦相手が姿を現した。
奏多も試合場へ入る。
向かい合う二人。
会場の空気が静まっていく。
そして――
ゴングが鳴った。
奏多の手元に、大剣が生成される。
対する相手が選んだのは、大鎌。
両者が武器を構えた。
その頃、会場のモニターには試合に関する情報が表示されていた。
奏多の使用アプリ。
その構成。
表示された内容を見た栞の目が大きく開く。
「えぇ!?」
隣にいた黒瀬もモニターを見る。
「俺と同じか」
黒瀬は奏多のいる試合場へ視線を移した。
そして、小さく呟く。
「見てたのかな」
「……あちゃー」
栞は困ったような顔をした。
だが、試合はもう始まっている。
奏多は大剣を構え、相手へ向かって踏み込んだ。
「いけっ!」
振り下ろす。
しかし――
避けられた。
奏多はすぐに切り返す。
もう一度。
さらにもう一度。
大剣が空を切る。
ブンッ。
ブンッ。
その間にも、相手の大鎌が奏多を狙う。
次の瞬間。
大鎌の刃が奏多を捉えた。
「ぐっ……!」
奏多が後退する。
モニターの数値が減少する。
まずい。
そう思った奏多は、再び距離を詰めた。
大剣を振る。
届かない。
もう一度。
届かない。
それに対して、大鎌は届く。
「くっ!」
奏多は一度、距離を取った。
大剣を見つめる。
このままでは当てられない。
なら――。
奏多は武器を切り替えた。
大剣が消える。
次の瞬間。
新たな武器が生成される。
ガトリング。
奏多は構えた。
そして、引き金を引く。
大量の弾丸が放たれた。
相手はすぐにシールドを展開する。
弾丸がシールドに弾かれる。
だが奏多は止まらない。
射線を変える。
相手が避ける。
さらに撃つ。
そのうちの数発が、相手を捉えた。
観客から声が上がる。
「おっ!」
栞も身を乗り出した。
「いい!」
奏多の口元が緩む。
当たる。
さっきまでとは違う。
相手が押されている。
奏多はさらに撃った。
撃って、撃って、撃ち続ける。
「いける!」
その瞬間だった。
ガトリングのエネルギー表示に警告が出る。
しかし、奏多は気づかない。
まだいける。
そう思って撃ち続ける。
そして――
「……あれ?」
引き金を引いた。
何も起こらない。
「……あれ?」
もう一度。
撃てない。
画面にエネルギー切れの表示が出た。
奏多の顔が固まる。
その向こうで、相手が動いた。
距離を詰めてくる。
「え……」
奏多が後退する。
相手の大鎌が大きく振り上げられた。
奏多の表情が強張る。
次の一撃が――迫る。