SS-003-1_第**3話_練習**
翌日。
公園に着くと、栞はもう来ていた。
「あ、結城くん! こっちこっち!」
少し離れたところから、栞が大きく手を振っている。
奏多は軽く手を上げて応え、そのそばまで歩いていった。
「おはよう、七瀬さん」
「おはよ!」
栞の足元には、昨日も見たスマホ一式が置かれていた。
ただし――今日は二つある。
「それ、二つあるけど……?」
「あ、こっちは森下先輩に借りてきたの!」
「森下先輩?」
「スマホ部の先輩!」
栞はそう言って、片方を奏多に差し出した。
「今日はこれ使って練習しよ!」
「うん」
奏多は受け取る。
借り物だと聞くと、なんとなく扱いも慎重になった。
すると栞が、今度は手を差し出してくる。
「じゃ、結城くん。スマフォ貸して」
「スマフォ?」
「武器とか設定するから!」
「ああ」
奏多はポケットから自分のスマフォを取り出して、栞に渡した。
栞は慣れた様子で画面を操作し始める。
その横から、奏多が覗き込んだ。
画面には、いくつもの名前が並んでいる。
ブレード。
シールド。
ライトシューター。
さらに別の項目にも、回線修復、オーバークロック、ラグ――。
栞の指が次々とそれらを選んでいく。
「いっぱいあるな……」
「いっぱいあるよー」
さらにスラッシュウェーブを設定して、栞は満足そうに頷いた。
「よし!」
スマフォを奏多へ返す。
「できた!」
「早いね」
「じゃあ、やってみよ!」
二人はスマホを身につけ、向かい合った。
準備を済ませる。
やがて、奏多の視界にフィールドが広がった。
「おお……」
昨日は外から見ていたものが、今日は自分の周囲にある。
思わず辺りを見回してしまう。
「結城くん、まず武器出してみよ!」
「あ、うん」
言われた通りに操作する。
先ほど栞が設定していた武器が表示された。
奏多は、その中からブレードを選ぶ。
次の瞬間。
手元から光が伸びるように、ブレードが生成された。
「おお!」
奏多はすぐに自分の手元を見た。
握っているのはグリップだ。
けれど視界の中では、その先に確かに武器がある。
軽く振ってみる。
ブォン、とブレードが空を切った。
「おお……!」
もう一度。
今度は少し大きく振る。
「これ、本当に自分で振るんだ」
「そうだよ!」
奏多はもう一度、ブレードを振った。
さっきより少し速く。
栞が楽しそうに笑う。
「じゃあ、私に当ててみて!」
「え、いいの?」
「対戦なんだから!」
栞も武器を生成する。
奏多は少し戸惑いながらも、ブレードを構えた。
「じゃあ……」
一歩近づいて、振る。
栞が避ける。
「あ」
「ふふん」
もう一度。
今度は反対から。
しかし、それも避けられた。
「……当たらない」
「ちゃんと狙わないと!」
「狙ってるよ」
「ほんとにー?」
栞が笑う。
奏多は少しだけむっとして、もう一度構えた。
今度はすぐに振らない。
栞を見る。
距離を見て、一歩近づく。
そして――振った。
「あっ」
ブレードが栞を捉えた。
奏多の視界に表示されていた数値が変化する。
「あ、減った」
「それがなくなったら負け!」
「なるほど」
奏多は表示を一度確認すると、すぐにまたブレードを構えた。
「じゃあ今度は結城くんね!」
「え?」
栞が武器を構える。
「ちょ、ちょっと待って」
「いくよ!」
栞が踏み込んできた。
奏多は反射的に身構える。
「武器で防いで!」
「武器で?」
慌ててブレードを前に出す。
二人の武器がぶつかった。
「おっ」
「そうそう!」
奏多は少し驚いて、自分のブレードを見る。
「これで防げるんだ」
「うん!」
「じゃあ――」
今度は奏多が振る。
「わっ!」
栞が慌てて受ける。
そのまま奏多がもう一度。
「待って待って!」
「今の当たった?」
「当たった!」
「あ、やっぱり?」
「やっぱりじゃないよ!」
綺麗な攻防とは、とても言えなかった。
栞も対戦が上手いわけではない。
奏多も、今日初めて触ったばかりだ。
振って。
避けて。
たまに当たって。
防ごうとして間に合わなくて。
それでも、少しずつ二人の動きが大きくなっていく。
しばらくして、奏多がふと手を止めた。
「そういえば、さっき他にもあったよね?」
「あるよ!」
奏多は武器を切り替える。
表示された中から選んだのは、ライトシューターだった。
ブレードが消え、新しい武器が生成される。
「これ、撃てるの?」
「撃てるよ」
「こう?」
奏多が栞へ向ける。
「え、ちょっと待っ――」
光弾が飛んだ。
「わっ!」
栞が慌てて避ける。
奏多が少し笑った。
「おお」
「急に撃たないでよ!」
「当てていいんでしょ?」
「そうだけど!」
もう一発。
「わっ!」
栞が逃げる。
奏多が追う。
「ちょっと、結城くん!」
さらに一発。
今度は栞も武器を構えた。
「もう!」
栞が反撃する。
「あっ」
奏多も避ける。
ライトシューターを構え直す。
撃つ。
避けられる。
もう一度撃つ。
また避けられる。
「速いな……」
「当たらないでしょ!」
「じゃあ、もうちょっと近くから」
「来ないで!」
いつの間にか、教えているのか遊んでいるのか分からなくなっていた。
*
「こんな感じかな!」
ひと区切りついたところで、栞が言った。
「だいたい分かった?」
「うん」
奏多は答えながら、手元のグリップを見る。
少しだけ考える。
「……もう一回!」
「え?」
「もう一回やろ」
栞は一瞬きょとんとして――すぐに笑った。
「いいよ!」
二人は再び向かい合った。
今度は最初から、奏多が迷わずブレードを生成する。
踏み込む。
振る。
栞が避ける。
追いかける。
ライトシューターに変える。
撃つ。
「わっ!」
逃げる栞を、奏多が追う。
さっきよりもずっと、二人の声が公園に響いていた。
*
「今日はこのくらいにしよっか」
練習を終え、栞がスマホを外した。
「うん」
奏多も外す。
さすがに少し疲れた。
けれど、嫌な疲れではなかった。
栞は奏多のスマフォをちらりと見る。
「結構できてたし――」
少し考えてから、笑った。
「明日の大会でも、この構成でいいかもね!」
「うん」
奏多は素直に頷いた。
明日は大会。
今日とは違う。
今度は、本当に知らない相手と戦う。
奏多はもう一度、手にしたスマホを見た。