SS-026_第**26話_それなら!**
「わわわえ、ちょ?!」
手裏剣が飛んでくる。
一度に五つ。
奏多が慌てて動く。
やり過ごしたと思ったところへ、次。
さらに次。
「ちょ、ちょっと待っ――」
もちろん、待ってはくれない。
五秒。
終わってしまえば短い。
だが、受ける側に回ると話が違った。
「はい、終わり!」
栞が手を止める。
周囲に浮かんでいた手裏剣が消えていく。
奏多は少し息を整えながら、その光景を見ていた。
「これは……発動させる前になんとかしたくなるね……」
「でしょ?」
「でも発動させないの難しいんじゃない……?」
「手裏剣乱舞の発動条件は二つあるよ」
栞が指を二本立てる。
「試合中にニンジャを合計一分使うことと、手裏剣を十回撃つこと」
「両方?」
「うん。両方」
「一分と、十回……」
奏多が少し考える。
「よし、結城くんニンジャ使ってみて!」
「え?」
「なるべく長く持たせてみよー!」
今度は奏多がニンジャ。
向かいに立った栞が生成したのは、大剣だった。
「……大剣相手か」
「いくよー」
奏多は距離を取った。
手裏剣を撃つ。
栞は大剣で対応しながら前へ出る。
もう一度。
奏多はさらに下がる。
手裏剣を撃つ。
栞は追う。
距離を取る。
撃つ。
近づかせない。
そのつもりでも、少しずつ栞との距離が縮まっていく。
大剣が届く。
奏多は刀で受けた。
激突。
「うわっ!」
一度ぶつかっただけで、ニンジャの耐久が大きく削れた。
奏多は慌てて離れる。
これはまずい。
もう一度まともにぶつかれば、持たない。
手裏剣を撃つ。
距離を取る。
栞が詰める。
また撃つ。
「これ、維持するの難しいねー!」
そこで奏多は、ふと思い出した。
森下との練習試合。
岡野が使っていたニンジャ。
そして――スキル。
あの時、岡野はスキルを全部、ニンジャを維持するために使っていた。
「岡野くんのあれ……」
栞の大剣から逃れながら、さらに距離を取る。
「そういうことだったんだ」
ニンジャを使い続ける。
手裏剣を撃つ。
その二つを積み重ねて、手裏剣乱舞まで持っていく。
でも、相手だってそれを待ってはくれない。
栞が距離を詰めてくる。
奏多は二度目の接触を避けようと動いた。
栞の大剣が振られる。
その振りは、むやみに速くない。
それでも、奏多には遅く見えなかった。
逃げる先へ、大剣が来る。
きれいに、理想速度へ乗る。
《破砕撃》
「……!」
激突。
ニンジャが砕け散った。
「あ……」
光の破片が、奏多の手元から消えていく。
栞は大剣を下ろした。
「はい、ここまで」
奏多は空になった手元を見る。
破砕撃。
昨日、自分でも使った。
一度は失敗した。
栞は今、それを攻防の中できっちり当てた。
「そっか……」
奏多が顔を上げる。
「使われる前に、武器を壊すのか」
「そういうのもあり」
栞が笑った。
強いものをどう使うか。
それだけじゃない。
相手の強いものを、どう使わせないか。
それからも練習は続いた。
一つ試して、止める。
武器を変えて、また試す。
勝ち負けを決めるための試合ではない。
奏多が大剣を構えた。
向かいの栞はブレード。
振る。
栞が受ける。
今度は栞から。
奏多が対応する。
何度か打ち合ううちに、大剣には少しずつ傷が増えていった。
奏多はその大剣を通常収納する。
別の武器へ。
そこから、さらに攻防が続いた。
「結城くん」
「ん?」
「リサイクルも入れてる?」
「うん、今回試そうと思って」
奏多はスキルを選ぶ。
発動。
光が手元に集まり、形を作っていく。
少し待って――。
大剣が戻った。
「……なるほど。」
傷が残っている。
さっきまで使っていた大剣。
そのままだ。
「耐久削れたままだ……」
「収納した時の状態で戻ってくるからね」
奏多は大剣を眺める。
新品になるわけじゃない。
「なるほど……」
「でも、使い方次第だよ」
「?」
「会長がよく使う手なの」
「生徒会長の?」
「うん」
奏多はもう一度、大剣を見る。
ボロボロの武器を戻して、何がそんなに強いんだろう。
練習は続いた。
大剣を使う。
収納する。
別の武器を使う。
栞が攻める。
奏多が下がる。
その時だった。
栞のブレードを見て、奏多は思う。
ここ。
大剣なら。
武器を変えようとして――止まった。
残りのエネルギー。
「……大剣生成するには、エネルギー足りないな……」
その表示を見た瞬間。
一つ、古い光景が頭をよぎった。
初めて出た大会。
初めての試合。
欲しい武器があった。
でも、出せなかった。
エネルギーが足りなかった。
そして――負けた。
「結城くん!」
栞の声で戻る。
ブレードが来る。
奏多は下がった。
考える。
装填。
それならエネルギーを戻せる。
でも――。
装填。
武器切り替え。
それから、大剣を生成。
栞はもう目の前にいる。
「……間に合わない」
さらに下がる。
ブレードが追ってくる。
急速充電。
あれを積んで使っていてもよかった。
でも、今はない。
今あるのは――。
奏多の指が動く。
リサイクル。
その次。
リペア。
「……!」
それなら!
中央リングを回す。
選択。
押す。
《リサイクル》
光が奏多の手元に集まり始める。
まだ、大剣はない。
栞のブレードが迫る。
「……っ」
奏多は一歩逃げる。
光が伸びる。
少しずつ、大剣の形を作っていく。
ほんの〇・六秒ほど。
それでも、追われている今は長い。
栞がもう一歩来る。
傷だらけの刀身が完成する。
大剣。
さっき収納した、ボロボロのままの大剣。
生成が終わる。
奏多はすぐに振った。
栞もブレードを構える。
受ける。
大剣が迫る。
その最中。
奏多の指はもう中央リングへ動いていた。
回す。
選ぶ。
押す。
《リペア》
振られている大剣に、修復のエフェクトが走った。
耐久が戻る。
そのまま――。
大剣とブレードが激突した。
一瞬、拮抗する。
そして。
栞のブレードに亀裂が走った。
「あ」
砕ける。
光の破片になって、ブレードが消えた。
奏多は傷の残った大剣を握ったまま、栞を見る。
武器がない。
今なら――。
大チャンスだ。
栞も、自分の空になった手元を見る。
すぐに奏多へ顔を上げた。
「すごい! 今の感じいいね!」
奏多は、手元の大剣を見る。
傷だらけではある。
それでも、まだ手の中にある。
「……うん」
少しだけ、口元が緩んだ。